5.結果

1.人型ピクトグラムのわかりやすさ

図5に理解度調査結果と有意差を抜粋して示す。1、2位は「劇化」形態、6、7位は抽象度が高いピクトグラムであった。1位「劇化」−6位「アイソタイプ」・7位「抽象」(p<.05)、2位「展開(劇化)」−6位「アイソタイプ」・7位「抽象」(p<.05)であったことから、わかりやすさには動作、手足先端処理(身体のディテール)、白い顔と髪の毛が影響していることがわかる。4位「展開」−5位「標準」・6位「アイソタイプ」・7位「抽象」(p<.05)からは、身体の非対称性があるほうがわかりやすく、顔の輪郭は卵形よりも円形がわかりやすさに影響していると言える。また、3位「基礎」−5位「標準」・6位「アイソタイプ」・7位「抽象」(p<.05)は、白い顔と白い手がわかりやすさに影響することを示している。総括すると、知的障害者にとって人型ピクトグラムのわかりやすさには、白い円形の顔、白い手、髪の毛、手足の先端処理、動作、身体の非対称性のグラフィックエレメントが、有効であることが示唆された。

図5 理解度調査結果及びグラフィックエレメントの差異(n=29)

2.日常活動能力と人型ピクトグラムのわかりやすさの関連

有意差が得られた独立変数を抜粋し、表1に示す。分析の結果、4種の人型ピクトグラムに対し、4つの下位領域が要因として識別された。理解度の向上には、「展開(劇化)」は「日常生活スキル」の「身辺自立」(p=.003)「地域生活」(p=.002)「家事」(p=.005)、「標準」では「コミュニケーション」の「表出言語」(p=.009)、「アイソタイプ」は「身辺自立」(p=.048)が、「抽象」は「日常生活スキル」の「地域生活」(p=.038)が識別された。つまりピクトグラムの形態により、理解のしやすさに影響する日常活動能力が異なることが示唆された。更に「展開(劇化)」、「抽象」ともに「地域生活」わかりやすさに影響があるが、その変化量は逆転することがわかった。

表 1 日常活動能力と人型ピクトグラムの順位に相関があった領域と非標準化係数 B(偏回帰係数)
Note: 非標準化係数 B は順位(わかりやすさ)への変化量を表す。- の場合は順位が上昇(黄色),+の場合は順位が下降(水色)。グレーは有意差なし。

6.考察

本研究は調査参加者人数が29名であったため、結果から断言をすることは避けたいが、 モドレイが制作したピクトグラムのグラフィックエレメントを含む「劇化」や「劇化に近い展開」の形態は、知的障害者に理解しやすいことが示唆された。また現代の標準ピクトグラムに近い形態である「抽象」は、最下位となった。つまり、現代の標準ピクトグラムの形態は、知的障害者には理解が難しいものであることが改めて示された。ピクトグラムは言語に頼らず、情報や意味を理解することを役割とする視覚記号である。その機能を思い直すと、ピクトグラムという存在が有効である対象、つまり知的障害者にとって理解が難しいデザインを国や国際的な標準とすることが正しいのか、疑問がある。一方で標準化されたピクトグラムは社会において一定の地位を得て、広く流布し学習されている。例えば発表者が行った一般青年前期群と成人知的障害者のピクトグラムの理解度調査では、標準JISが有意にわかりやすい割合について、成人知的障害群は10%であったのに対し、一般青年前期群では40%と4倍になった。一般青年前期群は知的障害と同じく、ISOの理解度調査の対象外とされている属性ではあるが、これほどの違いがある。この結果は、ある属性の対象にとって有効な形態が、他の属性の対象者に有効とは限らないという証左と捉えることも可能であり、ピクトグラムの応用展開を社会で実現していく上で避けることができない問題と考える。

そのため、それぞれの人の特性、また置かれている環境に即した、ピクトグラムのあり方が考えられないだろうか。例えば、標準ピクトグラムを基準とし、JISとの一貫性を保ちながら、グラフィックエレメントを加えたバージョンのピクトグラムがいくつかあり、使う人や、用途、場所、メディア、さらにはサイズによってピクトグラムを選ぶことができるシステムを構築する。この場合、標準ピクトグラムとの一貫性を保っていることで、標準ピクトグラムの学習のしやすさも確保できるのではないか。各属性によって形態の理解に差異があるということから、小数派をその対象から排除し、標準で一絡げにするにではなく、それぞれの人のわかりやすさを中心とする、標準化の次のピクトグラムのあり方が必要に思う。

  • Bakker, W. (2015) Pictopolitics: Icograda and the international development of pictogram standards: 1963-1986, in Frascara, J. (ed), Information design as principled action, Common Ground Publishing, pp.114-145. 
  • Kudo, M.(2022),Graphic Design of Pictograms Focusing on the Comprehension of People with Intellectual Disabilities -The Next Steps in Standardization: Pictogram Design and Evaluation Methods, Visible Language, 56(3), pp.58-85.
  • Zwaga, H. & Easterby R. (1984), Developing effective symbols for public information, in Easterby R. & Zwaga H. (eds.) Information Design, p. 277
  • 伊原久裕(2023),標準化以前のピクトグラム−ピクトグラムをカートゥーンに近づけるルドルフ・モドレイの試み,日本デザイン学会研究発表大会概要集,70,pp.170-171
  • 工藤真生(2014),知的障害者の理解度を包括したピクトグラムのユニバーサルデザイン,博士論文,筑波大学
  • 杉野昭博(2006),知的障害と絵記号(ピクトグラム)−障害学の視点から−,関西大学『社会学部紀要』38(1)pp.175-190

※この論文は障害学会第21回大会(2024年9月、東京理科大学)で発表した概要を元にしたものです。

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